白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
 「亜咲君、ここやめても私はあなたの友達。いいえ出来る事ならあなたの親友でいたい。私も彼と一緒になればここを去るつもり。

こういう日はいつか来るのは解っていた事。でも私はあなたとどこかで繋がっていたい。だからお願い亜咲君」

 嬉しかった。恵梨佳さんの気持ちが……

 「ありがとうございます。こちらこそお願いします。僕はここでバイトが出来て、恵梨佳さんと一緒に仕事が出来て本当に良かったと思います」

 恵梨佳さんは「ありがとう」と言って涙ぐんでいた。そして一緒に働いたメンバーも僕の事を励ましながら暖かく送り出してくれた。

 アパートは新年が開け、町が動き出したころ。引き払った。


 最後このアパートを出るとき、何もなくなった部屋を見渡した時。そこに沙織の姿が、あの優しい笑顔の沙織の姿が話しかけてくる。

 涙を流しなら、深く一礼をして部屋を後にした。


 冬休みが終わり、大学が動きだしてすぐに僕は休学届を出した。理由は、作家活動を優先するため、一時大学を休学したいと。期間は大学が許す期間まで……。

 書類は速やかに処理され僕は大学を休学した。

 その休学届が受理された日、ナッキから連絡が来た。

 僕に連絡しようか随分と迷ったらしい。ナッキは沙織が僕の記憶を失った事を知っている。

 「ご、ごめん急に電話して。い、今忙しかった、もし忙しかったらいいんだけど……」

 僕は明るい声で

 「よ、ナッキどうした。大丈夫だよ、今は暇だ」

 「そ、そうか。じゃ、亜咲君ちょっと会えないかな。少しの間……」

 「いいよ。どこに行けばいい」

 ナッキは少し考えた感じで

 「よ、よかったら、わ、私のマンションで。場所わかるよね」「ああ、解った」返事をして何度か沙織と行った事のあるナッキのマンションへ向かった。

 途中、ナッキの大好きな店のスイートポテトを買って。

 ドアを開けるそのナッキの表情は少し照れて、頬をピンク色に染めていた。

 「意外とは、早かったじゃん」僕は出来るだけ明るく振る舞って

 「はい、ナッキの大好きなスイートポテト」とお土産のスイートポテトを差し出すと

 「え、うわぁ。あそこのスイートじゃん。ありがとう亜咲君」と喜んでいた。「さ、上がって」と僕を部屋に招いた。

 「今お茶淹れるね。あ、適当にすわってて」
< 118 / 125 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop