白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
 模様替えがされていない、変わらないナッキの部屋の床にあぐらをかいて座った。

 少ししてナッキが紅茶と僕が買ってきたスイートポテトを皿に乗せてテーブルに置いた。

 そして彼女も座り「さ、紅茶冷めないうちに」と進めてくれた。

 僕はナッキを前にして

 「それでどんな用事だった」と静かに聞いた。

 彼女は少し下を向いて

 「あ、あのさ。あれから亜咲君何も連絡なかったじゃん。そ、それにさ、沙織もあんな事になって……あれから沙織には亜咲君の事話さないようにしてたんだけど、この前沙織が

 「ねぇナッキ、私前に誰かと付き合っていた」

 なんて言ってきてさ「どうして」って訊いたら

 「なんか大学でそんな事言われたから」……「な、なんて……」訊いたら

 「うーん。彼と別れたのなんて……身に覚えないんだけどなぁ」てね。


 だから「きっと勘違いしてんだよ。ほら髪型変えたし」「そうかなぁ」「そうだよ」て誤魔化したけど。
 「でも本当にその時、亜咲君の事忘れちゃったんだって。沙織にとっては、もともといなかった人になっちゃったんだって、何だかとても寂しくなっちゃって……」


 「………………」


 「ご、ごめん。一番辛いのは亜咲君だったよね。こんな事言っちゃって」

 「いや、いいよ。大丈夫だよ」僕は出来るだけ普通に返した。

 「でも亜咲君今どうしているの」

 「うん、実は今日大学に休学届出してきたんだ」

 「え、嘘、本当に」

 「ああ、それにバイトもやめた。あのアパートも先日引き払った」

 「そ、それじゃ、今どこに、実家に帰るの」

 ナッキは僕の事を訊いて驚きながらそしてどことなく寂しそうに訊いた。

 「実家には帰らないよ。今、優子。ほら元文芸部部長の有田優子っていただろ。知ってる」

 「あ、知ってる。在学中から本書いててよく雑誌にも出ている人だよね」

 「うん今、その人のところで世話になっている。まあ弟子みたいな感じかなぁ」

 「そっかぁ。それじゃ本格的に作家になる為に」

 「ああ、そんなところかな」

 「うん良かったよ」


 「……沙織は元気にしているか……」


 僕は唐突に訊いた。沙織の事を。

 ナッキは、これ以上沙織の事に触れてもいいのかと心配そうにしていたが、

 「うん、大丈夫だよ。沙織は、沙織はだいじょう……」
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