白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
 もちろん美野里の障害を知っての事、全てを納得の上結婚するのだと、一緒に来た美野里の手紙に会った。

 それと、出欠の欄には必ず出席にしろと、例え欠席と書いて返信しても認めないとそう書いてあった。


 強引なところは変わっていない様だ。

 もちろん、僕も優子も出席として返信してやった。

 美野里の結婚式に出席した僕は、優子の実母でもある、榊枝都菜と会うことが出来た。

 初めて出会った榊枝都菜は、僕が想像していた通りおおらかで優しく、いつも遠くの方を見ているような、それでいて物凄く鮮明で好奇心旺盛な人だった。

 彼女からも僕の小説や、ある雑誌に掲載する連載小説を読んでいると言って

 「あなたの物語っていつも何かを投げかけているのね」と、あの道しるべを感じ取ってくれていた。多分それが読み手に取っていいものに伝わっているのだと。

 でも一言「いつまであなたはその道しるべを書くつもり」と訊かれ、多分一生と答えた。

 「でも、もしそれが途中で終わるのなら、その後のあなたはまた大きく変わるはずでしょう」と、僕の未来を予想するかの様に言った。

 美野里とは結婚式当日式の中で、綺麗にそして厳かに着飾った美野里を見たのが最初だった。

 式も終盤に差し掛かり、いきなり僕にお祝いの言葉を言えと司会者が何の断りも無しにマイクを通し言った。
 僕はもちろん断ったが

 「さてお次は新婦のご友人……いや初恋の彼。そして今や人気のあの作家、亜咲達哉さんです。どうぞ」と紹介までされてしまった。

 本当に人前で話す事は苦手だ。何を話したかは未だ覚えていない。ただ、優子が腹を抱えて笑っていた事だけは覚えている。

 お祝いの言葉と言うか分からないが、一通り終わって席に戻ろうとした時、美野里がいきなり立ち上がり、新郎に確認するように頷き、高砂をおり僕の前に来た。


 そして、僕の手を取り僕の顔を見て



 「達哉、ありがとう」と美野里の口から、美野里の声が……聞こえた。普通に、なんでもなく普通に話す様に声が、美野里の声が聞こえてきた。



 「み、美野里」そう叫んで美野里を抱きしめてしまった。結婚式で、新郎もいるのに。

 これは美野里がセッティングしたサプライズだった。
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