白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
 さらりと自己紹介までこなしている。

 二人はそれぞれ自己紹介をして、沙織さんが僕に問いかけた。

 「お二人はどう言う関係ですか?」

 それは僕が答える。答えなかったら全部いいように宮村に、持って行かれそうだったから。

 「宮村とは大学に入ってから親しくしているんだ。」

 「そうなんだよね。亜咲とは同じ文芸部だし、それに俺も小説を書いている。亜咲とは馬が合うとい言った感じだな」

 こいつは人に溶け込むのが天才的だ。だが関心ばかりはしていられなかった。

 沙織さんが宮村に興味を示したからだ。

 「宮村さんも小説書かれているんですね。どんな小説なんですか」

 「宮村の……」

 宮村は隙きを見せない、つかさず話し出す。

 「あ、俺の書く小説?俺は異世界物が好きで、そっち方面の小説を書いている。もし良かったら俺の小説一度読んでみる」

 さすがの僕もちょっとカチンときたが、当の沙織さんは「ふーんそうなんだ」としかあまり興味を示さなかった。

 ナッキは相変わらずランチを美味しそうに口に運びながら

 「でもさぁ、見ていると宮村さんて亜咲君とは性格正反対のように思えるけど、それでよく馬が合う仲になれてんだろう」

 ナッキの言葉にふと、僕もどうしてだろうと思った。それに宮村はこう答えた。


 「そういえばそうかもしれない。亜咲はどちらかと言えば大人しいタイプで、自分から人の輪に入ろうとするタイプじゃない。でも俺は違う、人と接するのが好きだ。それでも何だろう、コイツと初めて会った時何か感じたんだ。何か人に焚きつける魅力みたいのをさ。俺にはない何かを持っている、だからだろう。それに俺はこいつにあんまり頭が上がらない。俺はいろんなところで、こいつに助けられているからな」


 ナッキは箸を止めて、「私、なんとなくわかるような気がする」と呟いた。それはこの前話してくれた、ナッキが想う沙織さんの事と合わさっていたのかもしれない。

 それに宮村が僕の事をそんな風に思っていたことを初めて知った。

 宮村は、沙織さんの方を向いて

 「亜咲は外見取っ付きにくく感じるけど、付き合ってみると物凄くイイ奴なんだ。何だか一緒に居ると安心するって感じでな」

 宮村の言葉は何となく心に響いた。

 沙織さんも

 「うん、それ私も感じていた。亜咲さんの小説読んで、亜咲さんの暖かい気持ちが伝わってきたから。だから私、亜咲さんが描く小説また読みたいと思ったの」

 少し目線を落として恥ずかしそうに、沙織さんは僕に向けて話してくれた。頬を薄っすらピンク色に染めて。
 「ハハハ、だってよ。良かったな亜咲」

 そう言って僕の背中を叩いた。

 「おっと、いけないもい時間だ。次の講義の準備しないと」

 宮村は慌ただしく席を立つ。

 トレーを持って

 「お、そうだ。今度4人で飲みに行かない。俺自分で言うのも何だけど。顔広いから色んな店キープできるぜ。お二人は居酒屋と静かに話の出来る店とどちらがいい」

 ナッキはつかさず

 「私、居酒屋ぁ」

 「ようし、解った。それじゃみんな都合のいい日合わせて、亜咲に教えておいてくれ」

 そう言って背を向けたが、振り返り


 「亜咲、次の小説題材見つかったか」


 「いや、まだだけど」

 宮村は、ニヤッと笑い


 「それなら、沙織さんの事、書いてみたらどうだ。幸いお前のジャンルは恋愛だからな」


 僕はドキッとして

 「そっそんな、沙織さんに失礼だよ。僕が沙織さんの事小説で書くなんて、そんな事沙織さんだって許してくれないよ」

 そっと沙織さんの方を見ると、彼女は桜色の頬を赤く染め、俯きながら

 「いいよ」と言ってくれた。

 「ほんとに」僕が訊き返すと、彼女はコクリと小さく頷いた。

 「そうら、出演交渉決まり。後はお前がどう描くかだけだ」


 何も描かれていない、白いキャンバスに。



 そう言って宮村は、席を後にした。

 僕は心の中で

 「宮村、頭が上がらないのは、お前じゃない。僕の方だ」

 立ち去る宮村の背中を眺めていた。

 それは、今日で6月が終わる最後の日だった。

 その日の日記には

 ***

 今日、宮村を入れて4人でランチを食べた。

 宮村が話した僕の事、今日初めて宮村が僕の事をどう感じていたか彼の話を訊いて知った。

 正直恥ずかしかったが、あいつはこう言う事で嘘をつく奴ではない事を僕が良く知っている。

 嬉しかった。それが素直な気持ちだ。

 そして、これも宮村の提案と言うよりも、もしかしたらあいつが仕組んだことかもしれない。

 僕が沙織さんを主人公にして小説を書くなんて。

 まだ、気持ちが収まらない。

 最初の一行を僕はまだ如何書くか、今も頭に浮かんでこない。

 ***

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