白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
彼女のアパートは、僕の居る街の駅から大学とは反対の2つ目の駅のところにあった。
僕らは、その駅からほど近い居酒屋に入り、少し遅い夕食を取った。
「ビールでいい?」区切られた暖の入らない掘りごたつの席に座ると、同時に彼女は訊いてきた。
「え、いいですよ。それより傷に触りますよビールなんか飲んじゃ」
「大丈夫、大丈夫。少し飲みたい気分なの。食べたい物言って、注文するから」
彼女はメニューを指し出した。もう、遠慮するのも失礼だと感じ、遠慮なく2品を選んだ。
呼び鈴ボタンを押し、威勢のいい声と共に来た店員に、僕の選んだ2品とあと、彼女が幾つか見繕って注文をした。
先にジョッキの生ビールが届き、二人で乾杯をした。
「おつかれー」「おつかれっす」カチンとグラスが鳴り、乾く喉に吸い込まれていった。
「はー、生き返る」
「今日は大変でしたからね」彼女は僕の方を見て
「あの時、亜咲君私を助けようとしたでしょ」
「あ、いや。あの時は僕よりも支配人が先に動いていましたから」
「そうね。あーいった時は、あの人に任せるのが一番。それに、その為にあの人がお店に居るんだもん。だから安心して業務に向かう事が出来る」
恵梨佳さんが言うあの人とは支配人の事だと、なんとなく察しが付いた。
また悪い癖が出る。
「恵梨佳さんは、支配人と」
彼女は、ふっと微笑んで
「解っちゃった。隠してたのになぁ」
「なんとなく。今日の事で」
「ふふふ、そっかぁ。うん、付き合ってるよ」
「でも支配人とは年が離れていますけど、それに」
支配人は見た目およそ四十歳くらい、恵梨佳さんは二十六歳と訊いていたから十四歳の歳の差がある。ましてや、支配人には離婚歴がある。
「そうね、彼とは年も離れているし、彼離婚してから十年くらい経つしね。それを言われたら何も言えないけど、お互いそれをちゃんと理解して付きあっているの。ほら、たまに彼の娘さんお店に来ているの知らない。あなたと同じくらいの」
確かにたまに来る若い女性が、支配人の娘である事は、薄々感じていた。
「彼女も知ってるの。彼と付き合っている事を。初めは確かにギクシャクしていたわ。でもね、私も彼女も最近になって、ようやく打ち解けて来たの。彼女も少し大人になって、恋をするようになって、人を好きになる事がどんなに素晴らしい事か解ったって。それから、私のパパをよろしくって言ってくれたわ」
「それじゃ」
「うん、来年籍を入れるの。でも、これは全部内緒よ。お店でも誰にも言わないでね」
「あ、はい、解りました。でも今は、おめでとうございます。と言わせてください」
恵梨佳さんは、微笑みながら「ありがとう」と返してくれた。
呼び鈴ボタンを押し、空になったビールの追加をした。
「それはそうと、亜咲君。あなた、彼女で来たでしょ」
僕は恵梨佳さんの言葉にドキッとして
「え、でもまだ付き合っているという訳でもないんですけど」
「それじゃあ、亜咲君の片想いなの」
「うー、そ、そう言われるとそうかもしれませんけど、彼女とは偶然あの公園で出会って、僕の書く小説が面白いって、それでまた読みたいって言ってくれて、最近では、彼女と彼女の友達と一緒に……良く学食でお昼食べるようになって、ほんと最近になってなんですけど、よく色んな事話すようになったんです」
しどろもどろになりながら、顔が熱くなるのを感じていた。恵梨佳さんは、そんな僕を微笑みながら
「そっかぁ、そうなんだ。いいなぁ。なんか純粋な恋愛って感じが乙女心をくすぐるね。それに亜咲君小説書いてるんだ。初耳だよ」
「そ、そうなんですけど……じ、実は今度、彼女を主人公に小説を書くことになって、正直、どんな風に書いたらいいのかさっぱり解んなくて、それに彼女の事まだ知らない事だらけなんです」
僕は、沙織さんのことを題材に、小説を書くことを打ち明けた。
「うん、それは困った。なにせ片想い中の相手の事を書かなければならないなんて、正直大変ね」
恵梨佳さんは店員が持ってきたビールを一口含み
「でもね、君の小説を読みたいって言ってくれて、自分の事小説にしてもいいよって言っているのなら、その彼女、もう亜咲君の方向いているんじゃない。それに、自分の事を書かれるって言う事は自分自身の事、亜咲君に知ってもらってもいいって言う事じゃない。もっとも、小説の中では本人とは分からない様に書くと思うけど」
それはそうだ、彼女の事をもっと知らなければ、小説には書けない。
「後は、亜咲君次第だと思うんだけどなぁ」
と、恵梨佳さんは言う。
「そうかも知れませんね」
これが、恋愛で言う相手にアタックしろと言う事だろう。恋愛小説を書いているのに恋愛には本当に疎(うと)い自分が情けない。
ぶっちゃけ、誰かに恋愛の指導をして貰いたい位だ。ビールで少し酔いが廻っていたかも知れない。思わず口が先に開いてしまった。
「恵梨佳さん、お願いです。恋愛って何か教えてください」
目を丸くしていたが、彼女もいい様に酔いが廻っていたのだろう。笑いながら
「ハハハ、こんな叔母さんの恋愛感情が役に立つのならいくらでもお教えいたしますわ
僕らは、その駅からほど近い居酒屋に入り、少し遅い夕食を取った。
「ビールでいい?」区切られた暖の入らない掘りごたつの席に座ると、同時に彼女は訊いてきた。
「え、いいですよ。それより傷に触りますよビールなんか飲んじゃ」
「大丈夫、大丈夫。少し飲みたい気分なの。食べたい物言って、注文するから」
彼女はメニューを指し出した。もう、遠慮するのも失礼だと感じ、遠慮なく2品を選んだ。
呼び鈴ボタンを押し、威勢のいい声と共に来た店員に、僕の選んだ2品とあと、彼女が幾つか見繕って注文をした。
先にジョッキの生ビールが届き、二人で乾杯をした。
「おつかれー」「おつかれっす」カチンとグラスが鳴り、乾く喉に吸い込まれていった。
「はー、生き返る」
「今日は大変でしたからね」彼女は僕の方を見て
「あの時、亜咲君私を助けようとしたでしょ」
「あ、いや。あの時は僕よりも支配人が先に動いていましたから」
「そうね。あーいった時は、あの人に任せるのが一番。それに、その為にあの人がお店に居るんだもん。だから安心して業務に向かう事が出来る」
恵梨佳さんが言うあの人とは支配人の事だと、なんとなく察しが付いた。
また悪い癖が出る。
「恵梨佳さんは、支配人と」
彼女は、ふっと微笑んで
「解っちゃった。隠してたのになぁ」
「なんとなく。今日の事で」
「ふふふ、そっかぁ。うん、付き合ってるよ」
「でも支配人とは年が離れていますけど、それに」
支配人は見た目およそ四十歳くらい、恵梨佳さんは二十六歳と訊いていたから十四歳の歳の差がある。ましてや、支配人には離婚歴がある。
「そうね、彼とは年も離れているし、彼離婚してから十年くらい経つしね。それを言われたら何も言えないけど、お互いそれをちゃんと理解して付きあっているの。ほら、たまに彼の娘さんお店に来ているの知らない。あなたと同じくらいの」
確かにたまに来る若い女性が、支配人の娘である事は、薄々感じていた。
「彼女も知ってるの。彼と付き合っている事を。初めは確かにギクシャクしていたわ。でもね、私も彼女も最近になって、ようやく打ち解けて来たの。彼女も少し大人になって、恋をするようになって、人を好きになる事がどんなに素晴らしい事か解ったって。それから、私のパパをよろしくって言ってくれたわ」
「それじゃ」
「うん、来年籍を入れるの。でも、これは全部内緒よ。お店でも誰にも言わないでね」
「あ、はい、解りました。でも今は、おめでとうございます。と言わせてください」
恵梨佳さんは、微笑みながら「ありがとう」と返してくれた。
呼び鈴ボタンを押し、空になったビールの追加をした。
「それはそうと、亜咲君。あなた、彼女で来たでしょ」
僕は恵梨佳さんの言葉にドキッとして
「え、でもまだ付き合っているという訳でもないんですけど」
「それじゃあ、亜咲君の片想いなの」
「うー、そ、そう言われるとそうかもしれませんけど、彼女とは偶然あの公園で出会って、僕の書く小説が面白いって、それでまた読みたいって言ってくれて、最近では、彼女と彼女の友達と一緒に……良く学食でお昼食べるようになって、ほんと最近になってなんですけど、よく色んな事話すようになったんです」
しどろもどろになりながら、顔が熱くなるのを感じていた。恵梨佳さんは、そんな僕を微笑みながら
「そっかぁ、そうなんだ。いいなぁ。なんか純粋な恋愛って感じが乙女心をくすぐるね。それに亜咲君小説書いてるんだ。初耳だよ」
「そ、そうなんですけど……じ、実は今度、彼女を主人公に小説を書くことになって、正直、どんな風に書いたらいいのかさっぱり解んなくて、それに彼女の事まだ知らない事だらけなんです」
僕は、沙織さんのことを題材に、小説を書くことを打ち明けた。
「うん、それは困った。なにせ片想い中の相手の事を書かなければならないなんて、正直大変ね」
恵梨佳さんは店員が持ってきたビールを一口含み
「でもね、君の小説を読みたいって言ってくれて、自分の事小説にしてもいいよって言っているのなら、その彼女、もう亜咲君の方向いているんじゃない。それに、自分の事を書かれるって言う事は自分自身の事、亜咲君に知ってもらってもいいって言う事じゃない。もっとも、小説の中では本人とは分からない様に書くと思うけど」
それはそうだ、彼女の事をもっと知らなければ、小説には書けない。
「後は、亜咲君次第だと思うんだけどなぁ」
と、恵梨佳さんは言う。
「そうかも知れませんね」
これが、恋愛で言う相手にアタックしろと言う事だろう。恋愛小説を書いているのに恋愛には本当に疎(うと)い自分が情けない。
ぶっちゃけ、誰かに恋愛の指導をして貰いたい位だ。ビールで少し酔いが廻っていたかも知れない。思わず口が先に開いてしまった。
「恵梨佳さん、お願いです。恋愛って何か教えてください」
目を丸くしていたが、彼女もいい様に酔いが廻っていたのだろう。笑いながら
「ハハハ、こんな叔母さんの恋愛感情が役に立つのならいくらでもお教えいたしますわ