白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
 肩を小刻みに震わせ僕の腕にしがみつく彼女は、今日どれぐらいの涙を流したんだろう。彼女の体をそっと僕の腕で包み込んだ。

 僕の話は彼女にとって辛かったのだろうか。特に美野里の事は。

  耳元で小さな声で

 「ごめん。僕の話辛かった」

  小さく頷くのが解る。

 泣きながら小さな声で話始める。

 「た……達哉さんがこんなにも辛い恋をしていたなんて……私……私は敵(かな)わない、達哉さんにそして美野里さんにどんなにしても敵わない。

でも達哉さんが羨ましい、あなたの傍にはとても素敵な人たちがいるから。そしてあなたはとても素晴らしい人だった。自分の目標をしっかりと持っていて今それに向かっている、それは簡単には手に入れられない目標そして決意。それを今必死に手にしようとしている。自分の人生を賭けて……」

 「うん、そうだよ。僕は僕の人生を賭けて作家になろうともがいている。そして君も今教師になろうと頑張っている。僕は沙織さんと同じだよ。それに君の傍にも素敵な人がいるじゃないか。

君を一番に思うナッキ、そして僕の親友でもある宮村。あいつも君の友達だよ。人は一人なんかじゃない、必ず傍にいてくれる人がいる。例えそれが一目惚れの人であっても僕は君のことが好きなんだ、いつまでも。それが今日から始まったんだ」

 「うん」

 今日一日が終わろうとしている。そして初めて二人で迎える新しい一日。僕らは一日一日を大切に過ごし、繰り返して僕たちの大事な思い出を一緒に作っていく。

 「沙織さん、書くよ沙織さんの事。僕がこれから一番大切にする沙織さんへの想いをそして思い出を……」
 「うん、お願いします。私も一目惚れした人に私の全てを捧げます。


だから、もし……もしも、私があなたの事を……見失ってもまたあなたの前に来られる様に……お願い」


 「うん。どんなに僕の事を見失っても見つけられる様に……」

 そっと彼女と唇を重ね合わせた。

 沙織さんの力が次第に抜けていく。そしてキスをしながらベットに寝かせた。

 優しく甘い香りが僕の鼻をかすめる。そして透き通る様に白く柔らかい肌に触れる。全身の肌に触れる、残すところなく彼女のすべての肌に触れて触れ合う。

 偶然出会って、お互いに一目惚れをしてお互いを探り合い、初めてデートをした日に気持ちを伝えた。その一日が終わった時僕たちは結ばれた。お互いに相手の気持ちを確かめるように。

 人との出会いは偶然が重なったものかも知れない。それを運命というのなら、運命とはとても悪戯(いたずら)な事だ。


 一筋の風が巻き起こした悪戯。


それは僕らの思い出と言う記憶を生み出すきっかけになった。


 僕は、たとえお互いがその大切なものを失っても、また取り戻せる様に物語を描(えが)く。白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように。

 

 再び

 「もしも、私があなたの事を……見失ってもまたあなたの前に来られる様に……お願い」
 
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