白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
 
 
 その店は、どこかの海外リゾートにありそうな、お洒落で広いオープンテラスが望める店だった。このテラスだったらさぞかし映画の撮影なんかに使われるだろうと思うほどだった。 


 朝、朝礼で僕が紹介された。そして一言と

 「初めまして、3日間の短期ヘルプですけどよろしくお願いします」と簡単に済ませた。こういうのがとても苦手だ。

 海水浴シーズン真っ只中のビーチには溢れんばかりの人が来ていた。それはこの新店も同じだった。

 それもそのはず今までこのビーチにはこんなお洒落なカフェレストランなんかなかったから。それにここはビーチの他、落ち着いた雰囲気を堪能できる独特の地域というか観光地と言うかそれなりに名の知れた所だ。海水浴以外の客もこのカフェレストランに足を向ける。

 「亜咲君、これ12番のテラスに」

 「はい、ただ今」

 その忙しさはまるで地獄の様だった。ホールもあの広いテラスも完全満員で、外には待ちの行列が延々と伸びている。

 テーブルを片付けるとすぐに次の客が座りオーダーが告げられる。挙句の果ては、サービスしている僕を捕まえて、追加注文をしてくる客もいた。


 あの綺麗で映画にでも出てきそうなリゾートオープンテラスはまるで地獄絵のようで、意味は異なるだろうが客は亜形(あぎょう)と吽形(うんぎょう)が入り乱れたような感だった。


 ようやく日が陰り、ビーチの人影が少なくなってくると、ディナーの時間になりメニューが切り替わる。ここからは遅番シフトの領域だ。

 ようやく一息入れてバックで汗だくになった制服を回収籠に放り込める。早くシャワーを浴びたい、それが今僕の願いだ。

 今沙織さんはどうしているんだろう。昨日で補講は全て終わっているから、今頃は自分の部屋で本でも読んでるのかなと彼女の事を考え店長に

 「お疲れ様です」と挨拶をした。

 「お、お疲れ亜咲緒くん。明日も頼むよ」と言いながら忙しそうにホールの方へ消えていった。

 同じ店の奴も二人ほどいたが、二人とも今日は遅番だった。

 足早にホテルに向かいシャワーを目指した。
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