白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
 愛奈ちゃんは泣き崩れてしまった。

 愛奈ちゃんの話を聞いて僕はあの宮村が、あいつが自分よりも大切にしている愛奈ちゃんにそんなことを言っていたなんて信じられなかった。

 「沙織、スマホ」沙織はどうするのと訊いた。

 「宮村に会ってくる。俺、あいつが意味もなくあいつが一番大切にしている愛奈ちゃんをこんなにまで傷つけるとは思わない。直接会って話してみる」

 沙織は「そう」といってスマホを手渡した。

 沙織に「お昼何か適当に食べてて」「うん分かった」沙織が返事をする。そしてドアの所で心配そうに「気負付けて」と一言。そっとキスをして部屋を出た。

 そして宮村に電話をかけた。

 宮村は「いつもン所いるぜ」と僕はそこへ向かった。

 宮村の言う「いつもン所」そこは宮村の家(実家)から近くの河川敷。僕と宮村、そして愛奈ちゃんと良くこの河川敷に来ていた。そのたび日に日に落ち着きを見せる愛奈ちゃんを宮村は安心した表情で僕に見せていた。

 そこに着くと宮村は土手の草の上に座り、黙って流れる川を眺めていた。

 「宮村」後ろから声をかけると「おっせーな亜咲」と少し元気なさげにきびすを返す。缶ジュースを渡し二人で開け一緒にのどに流す。

 「愛奈は」宮村は愛奈ちゃんの事を訊いた。多分愛奈ちゃんが沙織たちと一緒なのを感じていたのだろう。

 「大丈夫。沙織たちと僕のアパートにいる」

 「わりーな。いつも迷惑かけて」

 「いや、それよりどうすんだ宮村」

 「その話しっぷりだと、全部知ってるんだな」

 「ああ、愛奈ちゃん本人からも訊いた。母子手様も見た」

 「そっかぁ」宮村はゴロンと土手に仰向きになって

 「なぁ、亜咲。人ってやっぱり人から生まれるんだな」

 「何言ってんだ、そんなの当たり前じゃん」

 「いや、愛奈の腹ん中に赤ん坊がいるって聞いたとき、俺正直実感なかったんだ。愛奈があの愛奈が人生むってことがな」

 「それでもいま、愛奈ちゃんのお腹の中にはお前の子がいる。そうだろ宮村」

 「ああ、そうなんだよ。そうなんだけどよ。俺、分かんねんだよ、あいつの事考えると愛奈の事考えると何もわかんなくなるんだよ」 

 宮村は叫ぶ様に言う。
< 63 / 125 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop