白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
 土手には少しひんやりする風が吹いていた。そして僕ら二人を空から見ているかの様にトンボが飛んでいた。

 季節は着実にその色を変えつつあった。

 それから10日経ったある日、一通の招待状が僕と沙織の家、ナッキのマンションに届いた。

 そこには宮村孝之と佐崎愛奈の連名で書かれた招待状だった。

 あれから次の日、宮村は愛奈ちゃんの両親に土下座して愛奈ちゃんとの結婚をお願いした。そして今彼女のお腹にいる赤ちゃんを産むことを。愛奈ちゃんも必死に宮村に続いて自分の両親に願った。

 彼女の両親は反対することもなく。それどころか宮村に本当にいいのかと何度も何度も訊き返した。それを一つひとつ宮村は自分の決意を返した。

終いには愛奈ちゃんの両親も愛奈ちゃんも。そして宮村もぐちゃぐちゃに泣いて喜び合った。

宮村の家の方?そんなのとは言ってはいけないが、もうすでに娘のように迎えられていた愛奈ちゃんを反対する理由など、どこにあるのだろうと宮村の両親も喜んで承諾してくれた。


 愛奈ちゃんのお腹の赤ちゃんは思いのほか順調で、担当の医師からもしっかりサポートするから大丈夫だと了解を得ていた。

 ただ、順調なだけに愛奈ちゃんのお腹も目立ってくる。そこで入籍後簡単に二人のお祝いの席を設けることになった。まぁ一応教会で形だけの挙式をするようだが。

 出席者は二人の両親と兄弟。そして友人の僕らだけと、あの顔の広い宮村にすれば誰も呼ばない結婚式といった感じだろう。


 「ねぇ達哉。愛奈ちゃんたちの結婚式に何着ていく」


 「まだ早いだろ」10月の吉日なのに。
< 65 / 125 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop