白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
 「まだよ。順を追って言っているのよ」


 「はい、解りました」

 「それと、その彼女が恋をするとき、恋をすると言う事は何かと言う問題の投げ方も問題ないと思うわ。そしてその答えを主人公二人で探し見つけあう描写もうまく書けている。

片方は自分が動けず手を貸してやれないもどかしさ。もう片方はそれを知ろうとして動き傷つき悲しむ姿。このバランスも読者の気をもませる場面だと思う。でもね」

 彼女はおもむろにポケットから煙草を取り出し火を点けた。

 「部長、ここ禁煙ですけど」

 彼女は開きなおるように


 「携帯灰皿あるからいいじゃない」とさっきと変わってにこやかに言う。


 そして「ふう」と煙を吐いて「本題に入りますか」と一言言った。

 僕の顔を見て、僕の目を彼女の力強い目が刺す様に僕を見つめた。


 「綺麗すぎるのよ。あなたの書いた小説は」


 「綺麗すぎるって」

 「そっ、とても綺麗すぎるくらい綺麗なの」

 「それは……」

 彼女はタバコを携帯灰皿に入れ

 「あなたも当然自分の書いたこの小説読んだわよね。そして読んでいい出来だと感じたでしょ。確かにとっても良く出来た物語よ。でもね私から見たら、ただの板を見ているよう、もしかしたらただの真っすぐな直線でも見ているのと同じだわ」

 僕はぼっそりと「ただの直線」と呟いた。

 「そうよ、ただの真っすぐな線。亜咲君。この意味わかる」

 僕には部長の言うその意味がまったく解らなかった。素直に

 「解りません」

 「そうよね。貴方にはわかる訳がない」

 彼女はもう一本煙草を取り出し火を点けた。

 「亜咲君。今私に言われ話していて、あなた物凄く腹の中では怒っているんでしょうね」

 「そ、そんな」とはいったもの正直はらわたが煮えくり返っていた。

 「ハハハ、あなた正直ね顔にちゃんと出てるもの。嘘の漬(つ)けない人。それって致命的よ物語を小説として描くには」

 「嘘を付けないって嘘を書けっていうんですか」

 「あなた、ノンフェクションのルポでもこれから書くつもり、そうじゃないでしょ。貴方は小説を物語を書こうとしているんでしょ。それもプロとして」

 僕は何も言えなかった。

 部長は声を落とし、今までとは違い優しく柔らかく話し始めた。

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