白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
泣いた。あの時よりも、美野里と別れた時よりも泣いた。泣いた。 枕を顔に強く押し付け、ほのかに香る。沙織を感じながら泣いた。
嗚咽と涙。それをその枕に押し付けて……
それからしばらく僕は大学に行くこともなかった。
バイトにも、恵梨佳さんにしばらく休むと。
彼女は何も訊かなかった。「ただ頑張って」と一言言ってくれただけで……
何回か宮村からも電話があった「どうした」と
ただ具合が悪いとだけ伝え「行くか」と訊くが、「それ程じゃないよ」と言い返した。
いつしか学園祭も終わっていた。
そんな時、僕は有田優子のマンションのドアの前にいた。
多分、彼女に会おうとして来た訳じゃなかったのだろう。無意識に彼女のマンションに向かっていたのだろう。
インターフォンを押す。静かにドアが開いた。
彼女は何も言わず。そっと僕の顔を見つめて中に招いた。
あの居間のソファに座り、静かに
「心配していたよ」と言った。
その一言で、僕はまた崩れた。保っていた何かが崩れた。
そんな彼女は僕を優しく抱き抱えてくれた。彼女の胸の中に。
「うん、いいよ。いいよ。思いっきり泣きな。思いっきり……」
いつしか僕は彼女を有田優子を抱いた。
何かを忘れるように。すべてを忘れさせたい様に。
彼女はそれを受け止めた。僕のすべてを受け止めてくれた。
もう彼女の部屋の居間から見える小高い山は次第に色を換えようとしていた。11月になり、季節は冬へと向かっていた。
あれから僕は、大学にもバイトにも行かず、有田優子のところへ通っていた。彼女から、めんどくさいから一緒に住まないと言われたが、まだあの町を離れる気にはなれなかった。
そして、僕の書いたあの小説へのアドバイスも怠らなかった。
「これ、私が手を付ければその時点でもう意味がなくなるわ。私が出来るアドバイスは頷くことだけ。その部分の修正に対して頷くだけよ」
「ああ、そうだね。そうしてくれないと僕の作品じゃなくなってしまうよ優子」
「ふふふ、そう私は美野里ちゃんが昔、あなたにそうしてあげた様にしてやる事しか出来ない」
「また美野里の事出しやがって」
僕は彼女の後ろから抱き着いた。そして静かに