白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
乗り越えよう。その間は……***
また沙織は僕の前に来てくれた。
もう沙織は今まで自分が抱えていたあの病気を恐れなかった。
例え、沙織が一番大切にする僕の記憶が全て無くなっても、沙織はそれでいいと。そして僕もそれでいいと。お互い、今を愛し合うと心に決めたのだから。
僕らは一緒に有田優子のところに行った。
彼女も「やっぱりね」と言って半ば喜んでいた様だった。それに付け加え「私のの家政婦とオナペット契約は続行よ」と強制してきた。
「え、契約なんてしたか」と言うと。
「もう、契約なんかじゃない。私とあなたは師弟の関係よ。弟子は師の言う事を訊かないといけないのよ」と粋がるばかり粋がっていた。でも
「良かったね」と最後には彼女も言ってくれた。
沙織は横でそしらぬ顔で訊いていたが不意に真顔で
「部長さん、もう私の事知っていると思います。もし、私の病気が発症して、この人の事、達哉の事すべて私の中から消えたとき、この人をお願いします。達哉が一人っきりになった時、迎えてやってください」
優子は「何も死んでしまう訳じゃないんでしょ。そんなに思わなくても。なんかもう余命いくらかの人みたいよ」と優しく沙織に行言った。
「そう、です。私が死ぬわけじゃないんですけど。でも医師からは言われています。私が消した記憶は二度と戻らないって。
そしてその痕跡も一切なくなる。例え、近くに居る人がその事を話しても、私には理解することが出来ないだろうと。過去にどんな事があろうともその人の事を話されてもそれを認識して理解することはないだろうって。
だから私が死んでいなくなるより辛いと思います達哉にとっては」
「それは覚悟の上だと言っただろ」僕は沙織に返した。
そして優子は
「それは師の勤めね。大丈夫よ、あんたが嫌だって行っても縄でくくっておくから。だって弟子なんだもん当たり前でしょ」
優子の目は鋭かった。此奴(やつ)は本気だと思った。
「ねぇ、沙織さん。もしよ、もし彼と結婚することになったら、今のあなたは許してくれる」
「え、おい優子、そ、そんな事ある訳ないだろ。それにお前」と慌てて反論したが
「あら、いいのよ。貴方に仕事させて一緒に婚姻届けもどさくさに書かせるるから」
「おいおい。やめてくれよ」