蝶と空


「私ね、小学校の頃に階段から落ちたんだって。お母さんと遊んでいたら、そのまま。起きたら知らない人が私に微笑んでいたの」


「知らない人?」


私は美樹の質問にコクリと頷いた。


「お母さんだった。知らない人はお母さんだったの。」

「紗知…全部記憶無くしたの?」

「うん。気付いたら病院だった。言葉とか生活習慣は覚えてるのに、人は誰も分からないの。また産まれた気分だった」


私は窓の外を見つめて話した。

青い空を雲が川のように流れている。


「お父さんは死んだんだって。事故だったみたい。お母さんはお父さんのこと、あまり話すの好きじゃないみたいだから、顔すら知らないんだけど」


今度は小さな小鳥が、ピチピチと鳴いている。

姿は見えない。


「なんか、ごめん。辛い事思い出させちゃった」

「ううん。いいの。私も現実を受け入れて生きたいから」



そう。

例えどんなに悲しい過去だとしても。


過去の記憶が


無くとも。



受け入れていかなきゃいけない。



< 101 / 112 >

この作品をシェア

pagetop