蝶と空

私は一人病室に戻った。

珍しくベッドにうなだれる気にはなれなくて、隣にある小さな椅子に座った。


無意識にベッドにあるリモコンを持ち、テレビを付ける。



そこには私があまり触れることのなかったものがあった。

人々を笑わせる芸人。

暗いニュースキャスター。
きれいな声の歌手。
真剣に演技する男女。


次から次へと
チャンネルを変えた。


それが面白いわけではないけれど、パチパチと変わっていくテレビの世界をぼーっと眺めていた。







そのとき。


部屋の外がなんだか騒がしい。

バタバタと看護婦の走る音が聞こえてきた。


私は不思議に思い、部屋のドアを開けた。



そっと廊下を見ると…


誰か人が運ばれてきていた。

ガラガラとベッドの走る音が廊下に響く。


どうやら患者は重症らしく、看護婦達が一生懸命話かけていた。




ガラガラ…




私の部屋をベッドが通る瞬間…




スローモーションで景色がゆっくり流れた




そこで私が見たのは…







ベッドの上で苦しそうに運ばれる


美樹の姿だった。








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