蝶と空
家らしき場所の前で降ろしてもらい、彼が鍵を開けた。
ガチャ
鍵を開けて入ったその家は、ほのかに海の匂いがした。
「あれ、電気みつかんないや…」
彼はそう言いながら、壁を探っている。
あ。
私は電気らしきもの出っ張りが背中に当たった。
「これ…じゃない?」
「え、どこ?」
パチッ
明るい電気が目に染みた瞬間、初めてあなたの顔が見えた。
「俺、なんか顔についてる?」
「…え!ち、違うの!」
バカだよね。見すぎた…
綺麗に整った美しい顔
黒いTシャツからはだけて見える白い肌には、十字架のネックレス。
柔らかい雰囲気と、見に付けているものには激しいギャップがある。
それから言葉では表現できないような切なさを感じた。
なにか
泣きたくなるような衝動が、私の胸にどっと注いだ。
「あ、お風呂そっちだから入ってきていいよ。タオルとか置いておくから」
「うん。じゃあ先に、行って…くる。ありがとう…」
「うん」
この胸に注いだ衝動を
私はそのうち知ることになる。
それはまだ
先の話。