蝶と空
急に、現実に戻されたこの感覚。
でも、お母さんは心配している。
「こっち、おいで」
「え…?」
後ろを向くと、彼がキッチンで手招きしていた。
あんまり君の笑顔が柔らかいものだから…。
携帯を置いて、すぐに駆け寄った。
「ちょっと、味見して」
「うん」
差し出された小さな小皿に、静かに唇を付けた。
昨日とは、違う味のスープ。
とても暖かい味。
心が震える味だった。
それは、君が作ったから。
「塩、足りない?」
その答えに、首を振って答える。
「ん。ありがとう。着替え、洗面所に置いといた」
「着替え?」
そう聞くと彼は、「昨日のはもう汚いだろ」と言った。
そうして着替えの置いてある洗面所に向かうと、白いワンピースが綺麗にたたまれている。
けれど
「…私のじゃ、ない」
そう。私のではない。
きっと、この家に住む誰かのものだもの。
もうこれ以上、着ることなんてできなくて。