蝶と空
だったらもう
僕の入る隙間は
ないんだ。
「殴られた記憶なんて、思い出したくないですよね」
下にうつ向きながら、おばさんに言った。
「ええ…まぁ…」
僕の言いたいことを察したらしく、遠慮がちに答えられる。
「フラッシュバックなんてしたら、僕だって嫌です。紗知も辛いだろうし」
フラッシュバック。
それはなくした記憶がある衝撃で一気に戻ること。
「空くん…」
「おばさん…俺は…俺は、紗知の世界から、消えたほうがいいですよね」
「そんなことないわ!新しく紗知ちゃんの世界に入ればいいのよ!」
「いいです。おばさん、もう少しここの家にいても…いいですか」
「もちろんよ!ずっといてもいいのよ。じゃあ私、夕飯の準備してくるから…」
そう言っておばさんは出ていった。
紗知のためには、僕はいないほうがいい
紗知が生きていて、嬉しかった
ほっとした
でも
紗知の中に僕がいないのも悲しいんだ。
すごく悲しい。