蝶と空
俺はその場でうずくまった。
激痛のする頭を抱えながら
どうしてここに紗知がいるんだ
もしかして記憶が戻ったのか
とか、そんな行き場のない考えにただただ汗が滲む。
どんなに遠くでも
分かってしまう
それは、愛してるからだという答えを必死に揉み消した。
軽く激痛が収まった後、幻覚であるようにと願いながらまた海沿いを見た。
幻覚じゃなかった。
ちゃんと君は、いた。
「……紗知…」
懐かしい、響き。
どうして泣いているんだよ
君はいつも
涙の理由を言ってくれないんだ
紗知が、鳴り響く黒い海に向かって走っていることがわかったとき
俺はもう、紗知に向かって走っていた。
紗知、死ぬな。
だめだ
紗知の腕をつかんだ。
細い、細い腕
綺麗な瞳からは涙が滲んでいる
紗知の匂い
形
蝶のように
美しく
儚いきみに
そっと声を
かけた。