蝶と空
心地いい風のよく通る屋上。
私はそこにあの後、美樹に誘われて二人でいた。
「紗知、あのさ」
屋上のフェンスを掴み私の前にいる制服の美樹は、振り向かずに、ただ前だけを見て言った。
「なに?」
私がそう答えたとき、柔らかい風が二人の髪を揺らした。
「コーラ、好きじゃないの知ってたよ」
さらに強い風が
私の頬を切った
「え…?」
「あのね、コーラ。いっつも無理に飲んでたでしょ」
私はこの時、やっと美樹の言ってることが分かった。
いつも美樹に手を引かれて行くファーストフードと
適当にコーラばかり頼んで
無理に飲んでいた私を。
「紗知はいっつも私の相談ばかり聞いてくれてさ、作り笑いにも気づいてたよ」
後ろ姿の美樹が、今までにないくらい、すごく大人に見えた。
そして…
「ごめんね」
後ろ姿の美樹は、声をこもらせてそう言った。
泣いているのだろう。
美樹フェンスを掴む力が、ぎゅっ、と強くなったのが見えた。