甘言師、臥雲旦陽の甘い毒
一章
息を深く吸い込んだ男は、言いにくい言葉を勢い任せに吐き出した。
「お願いです。助けてください。妻を殺しました」
来客用の紅茶を淹れて戻ってきた梅芳 梵(うめよし そよぎ)は、接客用の営業スマイルを浮かべた。
「その依頼内容でしたら、臥雲が適任だと思います。呼んでまいりますのでお待ちください」
「え、あ、はぁ…」
随分と勇気を出したつもりだが、あまりにも自然な梅芳の対応に男はあっけにとられて頷いた。
殺人を申告した男相手に無防備に背を向け、応接間を出て行く梅芳の背中を不安と疑惑の眼差しが追った。