甘言師、臥雲旦陽の甘い毒

 「…死には痛みが伴う…」

 「ワタシだって痛かったんだ…今も…胸が痛む」

 「…それでも物理的な痛み、とくに死に対しての恐怖に比べれば易しいものでしょう」

 「…たしかに…痛かっただろうな…でも…あいつだって俺を苦しめた…俺だって痛かったんだ」

 視線だけだったものが、顔ごと、体ごと臥雲へ向いた。

 「…それでもあなたは生き、彼女は死んだ…この事実は永遠に変わらない」

 「俺を責めないでくれ!もう十分すぎるくらい俺は俺を責めた!もう十分だろ?それなのに、どうして俺を苦しめる!助けてくれ…おねがいだ」

 叫びによる懇願は、身体を抱えながらだった。

 姿勢を崩し、立ち上がった臥雲は見上げる小野に右手の人差し指を突き付けた。

 
< 16 / 22 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop