甘言師、臥雲旦陽の甘い毒

　「愛する人を殺したなんて嫌な依頼っすね」

　応接間を覗いていた国府谷（こうだに）は感情をそのまま言葉に出すタイプの男で、素直な性格が彼の良い所でもあり短所でもあった。

　「素直な感想はいわないものよ、秀由（ひでよし）くん。とくに仕事ではね」

　横をすり抜ける梅芳の後を追いながら、入って日の浅い国府谷は疑問を口にせずにはいられなかった。

　「あの人はつまり甘言師の僕らに殺人の事実の抹消を依頼しにきたんですよね？…臥雲さんってそう言うのが得意なんですか？」

　いつものさわやかな笑顔は疑惑と不安を隠しきれず歪んでいた。

　金髪に染めた髪を右手でかきながら、国府谷は小さく溜息を吐いた。

　「殺人の隠蔽なんて私達にできるわけないじゃない」

　歩みを止めた梅芳は、首を傾げ理解できない国府谷を振り返った。

　「いい？秀由くん。何度も言うけど私達は甘言師なの。甘言師は事実の隠蔽とか偽装工作とかそんなせこいマネしないし出来ない。事実は変えられないもの」

　「わかってますよ。甘言師とはつまり詐欺師みたいなものですよね。人を騙す騙し屋てきな」

　「全然わかってない。詐欺師？騙し屋？そんな仕事じゃないの。甘言師はね…やめた。口でいくら説明してもきっとわかってもらえないわ」

　突然の言葉に国府谷は慌てて先を促すも、梅芳は頑固に首を縦に振らなかった。