甘言師、臥雲旦陽の甘い毒

 「逃げてきた、疲れたと言っていた。どこかで犯した罪の重さに耐えきれず全てを話したいと思っていたんだろうな。その秘密の重さに耐えきれず、自分を責めていた。だが同時に奥さんの落ち度も責めたかった。だからここにきたんだ」

 説明を終わろうとする臥雲に、国府谷は慌てて待ったをかけた。

 「あの!全然わからないです」

 「あのね。私達甘言師はね?甘言。つまりあまい言葉を吐いて相手の都合のいい言葉をあげるの。時に味方になり、時に敵となる」

 「…つまり…なにもしないってことですか?」

 「違うわよ。私達は言葉を操る仕事なの。つまり依頼人の気持ちを尊重するってこと。言ったでしょう?偽装工作も隠蔽もしない」

 「…あの…僕にはさっぱり」

 「…バカは一生悩んでろ」

 構ってやれないと臥雲が応接間を不機嫌に出て行った。

 その背中を見ながら、梅芳は困ったように呟いた。

 「…臥雲さんは特別だから…」
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