甘言師、臥雲旦陽の甘い毒

 「…おまたせしました」

 随分とまたされたからだろうか。

 依頼人は大量の汗をかき、落ち着きなく視線を動かしていた。

 机を挟んで向かい側の席に隣り合って臥雲と国府谷が座るのを落ち着きのない視線で追っていた。

 「あ、あの…その」

 「臥雲 旦陽(がうん あさひ)と言います。こっちは助手のようなものです」

 先ほどまで随分とゆっくり話していたはずなのに、臥雲は急に饒舌になり自己紹介を始めたので、国府谷は助手と言うワードを聞き逃してしまった。

 「あ、ぼ、僕は国府谷 秀由といいます」

 「が、がうんさん…あの…依頼の…」

 「名前を教えていただけませんか?そうでなければあなたの名前も呼べない」

 相手の話を遮るところを初めて見た気がした。

 恐らく短い付き合いだがこれが初めてだと国府谷は驚いていた。

 たかが名前だ、依頼内容からしても名前を先に知る必要などないように思えた。

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