雪の降る日に、願いを消して
聡樹の小さな優しさをいくつも知ったあたしたちはファミレスを出た。


「じゃ、カラオケ行くか」


聡樹がそう言い、あたしの手を掴んで歩き出す。


他愛のない会話をしながら歩いていると、人ごみの中に見慣れた顔を見つけた。


駿と、妹の萌ちゃんだ。


2人を見つけた瞬間思わず足が止まってしまった。


心臓がドクンッと大きく跳ねる。


「どうした?」


急に立ち止まったあたしに、聡樹が聞く。


あたしは返事ができないまま、前方から歩いてくる2人に釘付けになっていた。


聡樹があたしの視線を追いかけて駿を見つけると「あ」と、小さな声を出した。


気づかれる前に移動しよう。


そう思ったけれど、一歩遅かった。


「聡樹、鈴!」


駿があたしたちに気が付いて手を上げたのだ。


隣の萌ちゃんもあたしたちの存在に気が付き、こちらを見る。


萌ちゃんはあたしと視線がぶつかった瞬間表情を硬くした。


しかし、あたしの隣に立っている聡樹を見るとその表情は和らいだ。


「駿……」


聡樹はあたしと駿を交互に見て戸惑っているようだ。


あたしだってどうすればいいのかわからない。


気が付かないふりをしてしまいたかったのに、声をかけられてしまったから今更逃げるのは不自然過ぎた。
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