雪の降る日に、願いを消して
でも、会ってしまうともうダメだった。


あたしの心は否が応でも駿へ向かう。


いくら聡樹が優しくしてくれても、その優しさに心が温かくなっても、あたしの気持ちまでは変わらない。


「じゃぁ、キスして」


突然そう言われて、あたしは更に目を見開いて聡樹を見た。


「そ、そんなのいきなり言われても……」


たじろいて聡樹から体を離すあたし。


だけど腕はしっかりと掴まれたまま、それ以上遠ざかる事はできない。


ここは密室だ。


何が起きても外にはわからない。


もしかしたらどこかに監視カメラがあって店員さんが助けに来てくれるのではないかと思ったが、そう考えた瞬間、あたしは聡樹とそんな関係になる事を望んでないのだということがわかって、胸が苦しくなった。


恋人同士になるということ、デートをするということ。


それらはキスやそれ以上の行為も含めての関係になるということだ。


そんなのわかっていたはずなのに……。


『一応付き合ってみたら?』


紗英の言葉を思い出す。
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