雪の降る日に、願いを消して
☆☆☆

部屋に入って来た聡樹が一番に口にしたのは意外な言葉だった。


「ごめん鈴。紗英に入れ知恵をしたのは俺なんだ」


突然そう言われ、あたしはキョトンとして聡樹を見る。


聡樹は丸いテーブルを挟んで向かい合って座っている。


コンビニの袋は聡樹の膝の上だ。


「入れ知恵……?」


「『一応付き合てみる』っていうの……」


「え……?」


理解できなくて、あたしは瞬きを繰り返した。


「俺、鈴に振られるってわかってて、だけどどうしても付き合いたくて、紗英にあんな話をしたんだ」


「……『一応付き合ってみる』っていう話?」


「あぁ。あれ、俺が適当についた嘘なんだ。それを鈴に聞かせる事で、俺と『一応』付き合ってくれないかなって……思って……」


そう言いながら、聡樹の声はどんどん小さくなっていく。


最後には聞こえないくらいになっていた。


「そ……うなの……?」


頭の中が混乱してうまく理解できない。


「あぁ。今日紗英から連絡来てさ、鈴が自分のせいで落ち込んでるって言って来たから、誤解を解きに来た」


一気にそう言って、大きく息を吐き出す聡樹。


あたしはテーブルの上のスマホを見た。


紗英にはあれ以降連絡をしていない。
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