雪の降る日に、願いを消して
「大丈夫だから、ちょっとどいて」


そんなか細い声が聞こえて来た直後、人だかりが二つに割れた。


そこから出て来たのは駿と桜子だった。


桜子はキュッと唇を結んで駿の体を支えている。


駿は真っ青な顔で一歩一歩ゆっくりと歩いてこちらへ向かってくる。


あたしたちは咄嗟に体を避けて道を作っていた。


桜子と視線がぶつかる。


だけど桜子はすぐに視線をそらし、なにもない空間を睨み付けるように歩いて行く。


本当は手を差し伸べてあげたい。


桜子よりも男子生徒の方が駿の体をしっかりと支える事ができる。


クラスにいる全員がその事に気が付いていただろう。


それでも誰も手を出す事ができなかった。


桜子も駿も、他の人に手助けをされることを望んではいない。


そのことが2人の雰囲気からわかってしまったからだ。


桜子と駿が教室から出ると、不思議な安堵感が教室の中に広がっていった。


見ている間は緊張に包まれていても、視界から消えると途端にそれは他人事になってしまう。


その様子がありありと広がっていて、あたしは唖然としてしまった。


「あいつのことだから大丈夫だろ」


「だよな。午後からの体育は参加するんだろうしな」


そんな声があちこちから聞こえて来たのだった。
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