雪の降る日に、願いを消して
「本当に1人で帰れるの?」


そんな声が遠くから聞こえてきて、あたしは思わず息を止めた。


今のは桜子の声だ。


ということは、駿に声をかけているのだろう。


「大丈夫だ。無理そうなら迎えを頼むから」


聞えて来た駿の声にドキンッと心臓は大きく跳ねた。


ここにいれば見つからないとわかっているのに、更に身を小さくして様子を伺う。


「そっか。じゃぁ今日は午後からの授業は休むんだね?」


「あぁ。悪いな桜子」


そんな会話には違和感があった。


駿は今から早退する。


桜子はそれを知っていてここまで一緒に来ている。


それなのに『午後からの授業は休むんだね?』という質問は明らかにおかしい。


あたしはかわいた唇をなめて耳をそばだてた。


2人の会話からもっと決定的な事を聞きたいと思ったが、2人はそのまま別れてしまった。


駿が生徒玄関を出るのを見送り、少し間を開けてあたしは歩き出した。


足音を最小限に忍ばせてゆっくりゆっくりと駿の後を追いかける。


駿は本当に体調が悪いようで、時々ふらつき、倒れてしまいそうなときがあった。
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