雪の降る日に、願いを消して
「ほら、小学校の頃転校していった小林が言ってただろ?」


その名前を聞いた瞬間、あたしの中に懐かしい面影が蘇って来た。


そうだ。


あの子の名前は小林。


小林カナちゃんだ。


「そうだっけ? 覚えてないや」


あたしは誤魔化した。


本当はカナちゃんの名前を忘れて、ジンクスを覚えている。


「俺もさ、好きな奴がいるんだ」


聡樹はそう言って、あたしから黒板へと向き直った。


チョークを持ち、黒板にその先を当てる。


カッと心地いい音が教室に響く。


スッと縦に一本線が引かれる。


続いて横に一本。


また、縦に一本。


「人に見られたら意味ないんだよ」


咄嗟にあたしはそう言っていた。


「は……?」


聡樹が驚いたような顔をして振りかえる。


あたしは聡樹から視線を逸らせた。
< 19 / 312 >

この作品をシェア

pagetop