雪の降る日に、願いを消して
「そっか。ごめんね急にいなくなったりして」


紗英はそう言ってほほ笑み、ベンチから立ち上がった。


丁度小さな雨粒が降ってきてあたしの腕を濡らした。


「ねぇ、紗英……」


「ごめんごめん、行こうか」


紗英はあたしの横を早足で通り過ぎていく。


話をしたくないのかもしれない。


「紗英、待って!」


階段を下りようとする紗英の腕を掴んでそう言っていた。


引き止めて何を言えばいいのか、正直わからなかった。


謝るのも違うし、かといってあたしに応援されても紗英からすれば複雑になるだけだろう。


ついさきまで立っていた場所は雨が降り注ぎ、視界が白くかすんで見えた。


あたしは後ろ手に屋上へ出るドアを閉めた。


雨音が遮断され、静かな空間に紗英と2人きりになった気分だ。
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