雪の降る日に、願いを消して
可憐の家を見上げて立ち止まる。


外は暗くなっていて、いつのならもう家の電気がついている時間だった。


それなのに、可憐の家の電気は消えていた。


元音も聞こえて来ないし、人の気配もない。


スッと背中に冷たい汗が流れて行くのを感じた。


『駿。戻りなさい』


玄関から突っ掛けをはいた母親が出てきて俺の腕を掴んでそう言った。


俺は可憐の家の窓をジッと見つめる。


なんだか裏切られたような気持ちだった。


心に大きな穴があいたような喪失感。


『なんで……引っ越しなんか……』


ようやくそんな言葉を絞り出す。


『仕方がないでしょう?』


母親の困ったような声が聞こえて来た。


そんなのわかってる。


可憐はもうこの家にはいない。


いないのだから、いくらだだをこねても無駄なんだ。
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