雪の降る日に、願いを消して
桜子が大げさにそう言い、倒れ込むようにして石段に座り込んだ。


『お疲れ、これ飲めよ』


いつの間にか自販機で買っていたジュースを、ショウが桜子へ差し出した。


『ありがとう』


『ショウ、お前もう少し手加減しろよな』


俺は息を切らしてそう言った。


『なんで?』


首を傾げてそう言うショウに、俺は返事に困ってしまった。


今の『なんで?』は、『なんで俺が桜子に手加減しなきゃいけないんだ?』という意味だ。


普段桜子に気を使わせているのは俺だから、俺が手加減すればいい。


そう言われているのがわかった。


『飲む?』


桜子から差し出されたジュースに手を伸ばす。


果汁100%のオレンジジュースに微かな胸の痛みを感じた。


このジュースは可憐が好きだったジュースだ。


『ありがとう』


俺は桜子に小さな声でお礼を言って、一口飲んだ。


乾いた体が一気に潤っていくのを感じる。


そのまま一気に何口か飲んで、ペットボトルをショウに返した。


『よし、じゃぁ最後まで昇るか』


ショウが石段から立ち上がってそう言った。


俺は桜子の手を取り、立ち上がらせた。
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