雪の降る日に、願いを消して
桜子は苦々しい表情になってそう聞いた。


『可憐の病気が治りますように、だ』


『でも、可憐はもう――』  


『……そうだよな』


俺は桜子の言葉を遮って頷いた。


可憐はもう引っ越したんだから。


桜子はきっとそう言いたかったのだろう。


だけど俺はその言葉を言わせなかった。


桜子の手をスルリと離すと、桜子は今にも泣き出してしまいそうな顔になった。


だけどかまわなかった。


俺が好きなのは桜子じゃない。


今も昔も、可憐ただ1人だったから。
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