雪の降る日に、願いを消して
『可憐、引っ越しはしてなかったんだね』


桜子がゆっくりとそう聞いた。


可憐は戸惑ったような表情を浮かべ『何の事?』と、言った。


久しぶりに聞いた可憐の声に心が震えるのがわかった。


それは昔よりも随分とイビツになり、まるでおばあちゃんのような声だ。


だけど間違いなく可憐の声だった。


『何の事って……可憐、引っ越してないの?』


『あの家に……いるよ?』


その言葉に俺たち3人の時間は一瞬停止してしまった。


あの家にいる?


引っ越しはしていない?


意味がわからなかった。


だけど現に可憐は今ここにいる。


『じゃぁ……どうして? 学校は……?』


桜子が混乱しながらもそう聞いた。


『学校は……お父さんが行かなくていいって』


『お母さんはなにも言わないの?』


『お母さんは、出て行っちゃったから』


可憐のお母さんは出て行った?


ではいつからあの家で可憐と父親の2人暮らしが始まったんだ?
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