雪の降る日に、願いを消して
「数年前、俺は夢を見たんだ」


駿がそう言った。


「夢?」


あたしは聞く。


「あぁ。あの神社の夢だった。神社の中から黄金色に輝く老人が出て来たんだ。顔はシワクチャで髭は伸ばし放題。そんな老人だったけど、これがあの神社の神様なんだなって、夢の中でわかったんだ」


夢の中で神様は駿に語りかけたそうだ。


『そろそろ願いを消したらどうだ? お前の体はもうボロボロだ』


だけど駿は頷かなかった。


自分がボロボロなら、可憐さんはもっとボロボロになっているはずだからだ。


『お前には残酷だが、あの子を助けることはできない。あの子の父親は警察とも繋がっているんだ。今更通報しても、もう遅い』


それならなお更願いを消す事なんてできなかった。


警察にも頼れないのであれば、自分が可憐さんを守り続けるしかないと考えたのだ。


『今のタイミングを伸ばせば、一生傷を分け合って生きていく事になる。それが辛くなって願いを消そうと思った時、その時は本物の愛を持っている人間が体を八つ裂きにされなければいらない。それでもいいのか?』


願いを消すなら今だった。


今消してしまえば、自分の痛みはすぐに消える。


だけど、駿はそれを選ばなかった。
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