雪の降る日に、願いを消して
雪の降る日に、願いを消して。
神社に到着すると、そこは山の木がすぐ近くまで迫ってきていた。


夜だからか、山と神社の境界線も怪しい。


あたしはそっと足を進める。


冷たい風が吹き抜けて首をすぼめた。


萌ちゃんは神社の石段の下まで一緒について来ていたが、あたしが「ここまででいい」と言って家に帰していた。


萌ちゃんには道案内もしてもらったのだ。


だけどここから先はあたし1人で行く。


八つ裂きにされる姿なんてきっと誰も見たくないだろうし。


息を吐き出すと、白いモヤになって消えて行く。


きっと、あと数時間で雪が降り始めるだろう。


その頃には街は朝日に包まれている。


それまでに、終わらせよう。


あたしは拝殿にそっと近づくとポケットの中から5円玉を取り出してお賽銭箱に投げ入れた。


5円玉はカラカラと音を立てて落ちていく。


続いて本坪鈴を鳴らし、二礼二拍一礼。


手を合わせて深く深く頭を下げた。


神様、どうか駿の願いを消してください。


あたしの持っている愛を、そしてこの体を差し出します。


お願いします神様、駿の願いを消してください……。
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