雪の降る日に、願いを消して
「俺さ……」


『俺さ』


たったそれだけの聡樹の言葉を聞いただけで、今すぐこの場から逃げたくなった。


嫌だ。


聞きたくない。


しかし聡樹につかまれた腕はびくともしない。


「お前の事が好きだ」


その言葉が鼓膜を揺るがした瞬間、周囲の音が消えた。


オレンジ色に染まっている世界に、あたしと聡樹しかいなくなった感覚だった。


「お前が駿の事だけを見てることは知ってる。だけど、お前だってもう気が付いてんだろ?」


『お前だってもう気が付いてんだろ?』


それが誰の、何をさしているのかあたしにはわからなかった。


駿の、桜子への気持ちだろうか?


桜子の、駿への気持ち?


それとも聡樹の……。


そこまで考えて、あたしは俯いた。


外に突っ立っている事はとても寒いことなのに、体中がほてっている。
< 30 / 312 >

この作品をシェア

pagetop