雪の降る日に、願いを消して
☆☆☆

そして、あっという間に放課後になっていた。


放課後になると同時に駿の周りに人だかりができている。


それでも桜子は駿と一緒に帰るのだろうと思っていたのだが、桜子は人ごみをさけるようにして、足早に教室を出て行ったのだ。


その様子を見送ってから、あたしは紗英に視線を送った。


紗英も桜子が1人で教室を出る様子を見ていて、あたしに視線を向ける。


「鈴、今日ってチャンスじゃないの?」


すぐに近づいてきてそう言う紗英。


「チャンスって……?」


「駿を誘って一緒に帰るチャンスだよ!」


そう言い、あたしの背中をバンバンと叩く。


その力に顔をしかめながら、あたしは駿を見た。


相変わらずクラスメートに囲まれていて、その姿を確認することはできない。


駿が倒れてしまった閉まった事を気にしているクラスメートがこんなに沢山いる。


中には駿を家まで送り届けようと考えている子だっているだろう。


あたしの出る幕ではない気がした。


それでも遠巻きにその様子を見ていると、駿がいくつかの誘いを断って1人で教室を出て行ったのだ。


「え、嘘」


予想外の展開にあたしは思わずそう言った。


「ほら、チャンスだってば!」


紗英が痛いくらいにあたしの背中を押す。


あたしは2、3歩前につんのめるようにして全身し、そこから先は弾かれたように走りだしたのだった。
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