雪の降る日に、願いを消して
あたしの汚い感情を丁寧に丁寧に消していく。


うっすらと残る文字も、力を込めて何度も何度も消していく。


「ねぇ、聡樹。もういいってば」


そう言って聡樹の腕を掴んだその瞬間、あたしの体は聡樹の両腕に包み込まれていた。


驚いて抵抗する暇もなかった。


聡樹の息遣いを首元に感じる。


あたしの首筋に顔をうずめた聡樹はとても苦しそうにうめき声を上げる。


「なんでだよ。なんでこんなになるまでアイツの事が好きなんだよ」


聡樹の腕があたしの体を強く抱きしめる。


冬なのに汗をかいていて、体温はとても高い。


「もういいだろ。十分頑張ったし、十分傷ついたろ」


そうなのかもしれない。


ずっとずっと駿の事が好きで、桜子の気持ちを知っても諦められなくて。


告白して、それでもダメで。


桜子の背中を押すつもりが、2人にしかわからない事があると見せつけられて……。


思い出すと、涙が滲んできていた。


教室の風景がぐにゃりと歪み、聡樹に抱きしめられていることでどうにか立つ事ができていた。


「俺なら、お前の事ここまで追い詰めたりしない。こんなになるまでほっといたりもしないだろ」


聡樹の言葉が鼓膜を揺るがす。


このまま聡樹の胸に顔をうずめて、すべてを任せてしまえたらあたしは幸せになれるんだろうか?


「俺の事、もう一度よく考えてみて」


そう言われて、あたしはぼんやりとした頭で小さく頷いたのだった。
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