雪の降る日に、願いを消して
もうとっくに出勤時間は過ぎているはずなのに、まだ家にいたのだと気が付いた。


ノックの後、お母さんが部屋に入って来た。


体温計を渡すとしかめっ面を浮かべる。


「高いわねぇ。どうする? 病院行く?」


その質問にあたしは「ううん」と、左右に首を振った。


本当は早く病院へ行った方がいいのはわかっている。


だけど、今起き上がって動くということがしんどいのだ。


「そう。それなら少しだけでも食べて、薬を飲んでちょうだい」


お母さんはそう言うと一旦廊下へ出て、お盆に乗せたお粥を運んできてくれた。


小さな土鍋で作られた一人分のお粥。


その香りはとても美味しそうなのだけれど、食べたいという欲求は湧いてこなかった。


「ほら、一口でもいいから」


そう言われて上半身を無理やり起こす。


頭を起こすとメマイを感じた。


フワフワと、脳だけ無重力の中に放り出されたような感覚。
< 97 / 312 >

この作品をシェア

pagetop