Happy Navigation
声の主は菜々羽の兄、小山 聡志(おやま さとし)だ。
聡志は学生時代からの付き合いの結衣(ゆい)と昨年結婚し婿養子に入っていた。
隣町の結衣の実家の近くに住んでいる。

ーーのに、なぜか理由をつけては、ちょくちょく菜々羽が一人暮らしをしているアパートを訪れるのだ。


そこのコンビニのコーヒーが飲みたくなって。
そこのスーパーの醤油が特売だから。
そこの本屋で立ち読みついで。
つい一週間前にも、そこのレンタルショップにDVD返しにきたそのついでーー、と寄っていったばかり。


そこの……じゃないよっ!!
自分ちの近くのコンビニでコーヒー買いなよ!


聡志はシスコンだ。
聡志本人はただの「妹思いのいい兄貴」と思っていて自覚がないだけにたちが悪い。
菜々羽の男関係も、三十路が近くなった妹にはアレコレ干渉はしないと言いつつもこっそり探りを入れてくる。

いや。本人はこっそり探っているつもりなんだろうけど、全然こっそりしてない。
こっそりしてないのに、上手く探ってるつもりなのが菜々羽を余計にイラつかせる。

「で?今日は結衣ちゃんは?」

「あー?友達と女子会だとよー」

「結衣ちゃんがかまってくれないからって、何もうちにこなくたって……
とっとと帰っておうちで結衣ちゃん帰ってくるの待ってたらいいんじゃないの?」

「おい……。
愛しのお兄様が遊びにきてやったって言うのに、つめてぇな」

すねた子供みたいに聡志は唇を尖らせた。
でもそれは一瞬で、すぐにニヤリと下衆な笑顔を浮かべる。

「で?オマエなんかあったろ。面白いネタ持ってそうなにおいがする」

「うっわ。サイテイな笑顔!人の悩みを面白がるようなヤツに相談なんてしたくない。
今度結衣ちゃんに会う機会があったら、結衣ちゃんに相談するからいい」

「まぁまぁ、そう言わず。
……男がらみだろー?男の気持ちは男にしかわかんないぜ」


「……むー」
< 11 / 16 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop