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あからさまに視線を集めているわけではないけれど、静かな部署でやけに響いた『忘れ物』の一声。
いつもよりボリュームを上げたその声は、自然と人々の視線を二人に集めていた。

”忘れ物”

「----え、あ、と、わす?え?あ……ああ、ありがっ」

にっこりと無邪気に笑う浅葉。
それはいつもの笑顔に見えた。

笑顔の前にベロリと肌色のブツ。


「ぐ、はっ!!ちょっ!!!!
うわぁあああああ!!!!」

浅葉が手にしていた『忘れ物』を菜々羽が勢いよくひったくった。

「ちょっ、浅葉くん!!きっ、来て」

そして浅葉の腕を掴んで慌てて部屋を出ていく。
声のした方をなんとなく見てます……な微妙な視線は、菜々羽のとてつもない絶叫で”あからさまに菜々羽たちを見ています”に変化していた。
けれど、そんな視線を気にする余裕なんてない。
大の男を引きずるように部屋を出て、そのまま向かい側の小会議室に引っ張り込むと勢いよく扉を閉めた。

「ち、あ、くっ!!」

「ふは、菜々さん顔、まっか。ホラホラとりあえず深呼吸」

「ーー!!ちょっと!浅葉くんどういうつもりよ」

「……どういうって、忘れ物」

「だって、こんなモノあんなところで返さなくたって」

菜々羽の手に握りしめられているのは、あの日忘れていったと思われるストッキングだった。

「LINEもメールも電話も全無視してるのそっちでしょう?
会社で返す他ないじゃないですか」

「っ!!別にあんな人前で返さなくたってっ、しかもっ、こんなそのまんま」

「朝っぱらから僕から逃げ回ってたの、菜々さんじゃん。
なに?ストーカーみたいに一日付け回して、今だ!って返せば良かったんですか?
だいたい勝手に帰っておいて、無視されてどうして僕ばっかり気をつかわないといけないんですか?不公平だと思いません?」
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