VS IV Omnibus2 パペット


 しかし、チビがプァンス(王子)で、旦那がサンドリヨン(シンデレラ)ねぇ。

 妻の説明に、逆じゃないかと突っ込んでみたが、キョトンとした顔が返されただけだ。

 ちくしょう、可愛い。

 知的な表情が、あどけなくなる瞬間だ。

 チナのやらかす頓狂なことも、結局アルバのハートを打ち抜くだけだった。

 それ以前に。

 これまで、彼女がこの船でやらかしたことが、裏目に出たことはまったくない。

 どんな悪党を相手にしても、上手に食べ物で手なずけるのだ。

 プァンスも、すっかりチナの料理にメロメロなのは、見ていて分かる。

 アルバには近づいてこないが、チナにはべったりだった。

 ついさっきの、食事の時だって。

「雷のお菓子が食べたい」

 と、名指しでデザートの注文をしていた。

 雷のお菓子ってなんだと思ってみていたら、チナがにこやかに、山盛りのエクレアを抱えてきた。

 なんで、雷でそれが出てくんだよ、そんで当たってるのかよ!

 変人同士の独特の世界に入れず、アルバは唸ったのだ。

 ただ。

「あなたに、きっと力を与えてくれるわ」

 妻が、そう言ったら。

 エクレアに伸ばしかけた手を、プァンスが一瞬止めた。

 あの食欲魔人が、食べるのを止めるなんて。

「えへへ」

 何故だろう。

 アルバには、少しプァンスが泣きそうに見えたのだ。
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