VS IV Omnibus2 パペット
□
操縦士は一人。
しかし、アルバだって睡眠を取らなければならない。
到着まで、あと10日は間違いなくかかるし、ここはまだセーフティエリアだ。
遠隔コンパネを手元に置いておけば、一応睡眠を取ることは可能である。
「いまのうちに休んどくか」
標準時では、もう真夜中だ。
チナも既に、夢の中だろう。
寝室に向かおうと、アルバは操縦室から居住エリアへと向かった。
最小の薄暗い照明の中、奥の寝室に向かいかけた時。
彼は──聞いてはならないものを、聞いた。
とてもとても小さいが、声が漏れてくるのだ。
アルバが、自分の耳のよさを、恨む瞬間でもあった。
それは、女の、いわゆる、そういう声に、聞こえたのだ。
うぉい!
彼らのドアに向かって、叫びたい気持ちを、アルバは必死で抑えた。
ピアノをフォルテッシモで殴り弾いたとしても、音は外には漏れない。
それほどの、防音力のある壁のはずだ。
なのに、なぜ漏れる!
詳しく考えたくなかった。
中で、あの嬢ちゃんが、猛獣のように雄たけびをあげている──それが答えだからだ。
もしかして、虐待とかの方じゃないだろうな。
さすがに信じがたく、アルバは彼らのドアの前で立ち尽くす。
すぅっと、後方のドアが開いた。
びくっと振り返ると、起き出してきたチナと目が合う。
メガネのない目を、少し眠そうにこすっている。
「あっ、いや、これは…」
決して、盗み聴きとか覗きとかではなく。
アルバが、妻に言い訳をしようとしたら。
その身体を、妻がぎゅーっと抱きしめてきた。
寝起きのチナは、何故かバニラの匂いがする。
それが、ふわっと鼻先をくすぐった。
「大丈夫よ、あなた…心配いらないわ…寝ましょう」
そして、寝室に引っ張り込まれた。
うーん。
妻は、あの二人のことを理解してしまったようだ。
だが、それを言葉に変換する能力は備わっていなくて、聞いてもかみ合わない答えが返ってくるだけ。
だが。
チナが心配ないというのなら。
大丈夫なのだろう。
多分。
操縦士は一人。
しかし、アルバだって睡眠を取らなければならない。
到着まで、あと10日は間違いなくかかるし、ここはまだセーフティエリアだ。
遠隔コンパネを手元に置いておけば、一応睡眠を取ることは可能である。
「いまのうちに休んどくか」
標準時では、もう真夜中だ。
チナも既に、夢の中だろう。
寝室に向かおうと、アルバは操縦室から居住エリアへと向かった。
最小の薄暗い照明の中、奥の寝室に向かいかけた時。
彼は──聞いてはならないものを、聞いた。
とてもとても小さいが、声が漏れてくるのだ。
アルバが、自分の耳のよさを、恨む瞬間でもあった。
それは、女の、いわゆる、そういう声に、聞こえたのだ。
うぉい!
彼らのドアに向かって、叫びたい気持ちを、アルバは必死で抑えた。
ピアノをフォルテッシモで殴り弾いたとしても、音は外には漏れない。
それほどの、防音力のある壁のはずだ。
なのに、なぜ漏れる!
詳しく考えたくなかった。
中で、あの嬢ちゃんが、猛獣のように雄たけびをあげている──それが答えだからだ。
もしかして、虐待とかの方じゃないだろうな。
さすがに信じがたく、アルバは彼らのドアの前で立ち尽くす。
すぅっと、後方のドアが開いた。
びくっと振り返ると、起き出してきたチナと目が合う。
メガネのない目を、少し眠そうにこすっている。
「あっ、いや、これは…」
決して、盗み聴きとか覗きとかではなく。
アルバが、妻に言い訳をしようとしたら。
その身体を、妻がぎゅーっと抱きしめてきた。
寝起きのチナは、何故かバニラの匂いがする。
それが、ふわっと鼻先をくすぐった。
「大丈夫よ、あなた…心配いらないわ…寝ましょう」
そして、寝室に引っ張り込まれた。
うーん。
妻は、あの二人のことを理解してしまったようだ。
だが、それを言葉に変換する能力は備わっていなくて、聞いてもかみ合わない答えが返ってくるだけ。
だが。
チナが心配ないというのなら。
大丈夫なのだろう。
多分。