VS IV Omnibus2 パペット


 チナの朝は──忙しい。

 彼女より先に起き出しているアルバのところへ、キスを届けにいくところから始めなければならない。

 操縦室だ。

「おはよう、あなた」

「おはようさん」

 憮然とした顔が返ってくるのは、昨夜のプァンスたちのことが原因だろうか。

 夫は、チナより遥かに繊細だ。

 そう彼女は思っている。

 いろいろなものを、気にしすぎるのだ。

 夫への挨拶が終わると、厨房にこもる。

 調理の材料は、基本的にパウダーフーズである。

 あらゆるものを粉にして、それをブロック単位に固めてあるのだ。

 長期保管、備蓄、そして量や種類を豊富に用意できる点から、優秀と言われている。

 宙船のシェフは、それをいかにおいしく再構築するかが仕事だ。

 化結レンジを使えば、限りなくオリジナルに近い形に化学結合できる。

 ふふふ。

 チナは、化結レンジが魔法のように、分子結合していくのをドアごしに見るのが大好きだ。

 レンジに入れる前に、いろいろミックスするのも楽しい。

 上手にミックスできれば、ほぼ完成に近い形で一品完成する。

 その魔法のレンジが、なんとここには四基も搭載されているのだ。

 船の規模を考えると、絶対に厨房設備だけは特注だと分かる。

 乗り込んで最初に厨房の設備と、積み込まれるパウダーフーズの量と種類を見た時、チナは思った。

 たくさん食べるのね、と。

 ただ。

 不思議なこともあった。

 これと同じ光景を、いつか見た気がするのだ。

 デ・ジャ・ヴと言えば、よくあること。

 だが、それは一度だけのことではなかった。

 船に乗り込んできた男に、アルバが「妻はどこか」と聞いた時、自然にトランクに目がいったのは、偶然ではないと思っている。

 どうしてかしら。

 次々と朝食を完成させながら、チナはぼんやりと思った。

 私、プァンスを知ってるみたい。
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