VS IV Omnibus2 パペット


「待て、チナ」

 操縦席に座ったままのアルバに、ご飯を届けにきたら、引き止められた。

「なぁに、あなた?」

 食べているところを、眺めててもいいのかしら。

 うふふっと微笑みながら、チナは副操縦席に座った。

「いま、なんつった?」

 肉にフォークを突き立てながらも、夫の目は彼女に釘付けだ。

「いま? って…ええと」

 何か、気軽な雑談をしていた気がするが、気軽過ぎてすぐに思い出せない。

「いま、『私、あの人たちと会ったことあるかも』って、言ったよな」

 夫に復唱されて、ようやくつながった。

 そうそう、そういう雑談をしていたのだ。

「ええ、そんな気がするわ…だって、いろいろ知ってる気がするもの」

 彼らを感じたり、話を聞くごとに、チナの隙間のパズルが埋まっていく気がするのだ。

 レンジ4基の厨房、トランクの少女、サンドリヨン、雷のお菓子。

 難しい顔をしているアルバは、どうもそれを歓迎していない気がした。

「でも…会ったのは夢の中かもしれないわよ」

 うふふっと、チナは笑った。

 子供の頃から、不思議な感覚といっぱい出会ってきたので、もしそうだったとしても、まったく問題はない。

 それに、どんな不可解なことがあっても、アルバは絶対にチナを離したりしないと知っている。

 その感覚は、彼女をどんなに幸せにしたことだろう。

「いま、軍のラインから、ちょいちょい情報を抜いてるんだが…」

 アルバは、計器に目をやった。

 そういえば。

 この船が軍港から出るとき、ラインを一本、軍とつないでおくとかなんとか、サンドとアルバが話していたような。

 まだ、彼らの正体(?)に、アルバは興味があるのだろうか。

 道理で、今日はここにずっと閉じこもっているはずだ。

 探偵ごっこを、しているのだろう。

 彼らの正体なら、プァンスとサンドリヨンと、ちゃんと教えてあげたのに。

「オレの推理が確かなら…」

 肉をかみちぎる、ワイルドな歯。

 うっとりと、チナがその食べっぷりにみとれようとした時。

「多分…あいつらは…『パペット』だ」

 食べ物を口に入れながら、夫はそう言った。
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