VS IV Omnibus2 パペット


 パペット。

 チナは、頭の中でその言葉を繰り返してみた。

 しっくりこない。

「変な名前ね…でも、プァンスとサンドでいいんじゃない? 気に入ってくれてるみたいだし」

 チナは、首を傾げながら意見を言ってみた。

「そうっ…じゃねぇぇぇ!」

 肉を噛みながら、髪をかきむしるアルバ。

 食事中に、髪を触るのはちょっと。

 言いかけたが、聞いてくれる状態ではないようだ。

 うーん。

 チナは、困ってしまった。

 彼らがパペットであるという事実が、どうにもアルバをいじめている。

「あのプァンスが、あのパペットなんだぞ!」

 そう言われた瞬間。

 あ。

 チナの頭の中に、パズルがまたひとつはめこまれた。

 これと、まったく同じやりとりを、したことがあったのだ。

 しかも。

 アルバと。

 チナは嬉しくなった。

 この、デ・ジャ・ヴは自分一人のものでも、夢のものでもないと分かったからだ。

「あなた、あなた!」

 チナは嬉しくなって、夫に抱きついた。

 ガシャンガシャンと、彼の持つ皿の上でフォークが踊って激しい音を立てたが、上手に落とさないでいてくれる。

「わっ、たっ! なんだ、チナ!」

 突然の感激の抱擁に、アルバがびっくりしている。

「あなたもよ、アルバ。あなたも、プァンスとサンドを知ってるのよ!」

 チナが、彼らに会ったことがあるのではない。

 二人で会ったのだ。

「だから、パペットだって言ってんだろ」

 しかし。

 アルバは、まったく見当はずれなことを、最後まで言い続けたのだった。
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