VS IV Omnibus2 パペット


「で、奥さんはどこにいるんだ?」

 出港間際、船に乗り込んできた男に、アルバはもう一度、妻の居場所を聞いた。

 契約では、二人を移送するという話だったのに、彼が一人で乗り込んできたからだ。

 横のチナが、アルバのシャツを引っ張った。

「あなた…奥さん、あの中にいるんじゃないかしら」

 最初に会った時もさげていたトランクを、妻が指差す。

「ハハハッ、お前なぁ…どこの世界に、妻をトランクにいれる人間が…」

 ナイスジョークだと、アルバは笑いながら妻の意見に、うっちゃりをかました。

 なのに。

 男は、黙ってトランクをテーブルに乗せる。

 カチャガチャ。

 そして、複雑な操作で、それを開けるのだ。

「お、おい…」

 中から、バラバラ死体でも出てくるんじゃないかと、アルバは反射的に身を引く。

 しっかり、チナも連れて下がったが。

 開かれたトランクの蓋。

 中では──少女(?)が眠っていた。

 短い短い金の髪。

 性別も分からないような細い身体。

 少女、と解釈をしたのは、彼が「妻」という言葉を使ったからだ。

 そうでなければ、アルバはきっと少年だと思っただろう。

 その身体が、クッション剤に囲まれるように、綺麗にトランクにおさまっていたわけだ。

 アルバの頭に、『屈葬』という単語がよぎったが、忘れることにした。

「もうすぐ起きる…何か食べ物を頼む」

 トランクの中から、彼女をそっと抱き上げて出す。

 男と比べれば、本当にその少女は小さく感じた。

「こんなに可愛らしいなら、きっと甘いものが大好きね」

 うふふ。

 チナは微笑んだ。

 彼女はすぐに、備え付けの厨房設備へ向かおうとした。

「ああ…それから」

 男が、何かを付け足そうとした時。

 チナが、くるっと振り返った。

「たーくさん用意するわね」

 妻は──時々、人の心を読める気がする。
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