VS IV Omnibus2 パペット


 船を自動航行に切り替え、アルバはようやく操縦席を離れることが出来た。

 非常時用の、船の遠隔操作コンパネを片手に、居住デッキへ移る。

 妻が一人で、あの二人の応対をしているのが、ちょっと──ではなく、かなり気になっていたからだ。

 そして、彼は見た。

 この世の全てを、食らい尽くすんではないかという勢いの少女を。

 次々に運ぶチナの料理は、またたく間に片付けられていく。

「あら、あなた…あなたも食事にする?」

 微笑む妻には悪いが、アルバはうっぷと口を押さえていた。

 普段、人より食べる自覚のある彼から、食欲を奪うなんて、とんだモンスターだ。

「おいしい、すっごくおいしい」

 だが。

 顔のあちこちに食べこぼしをくっつけたまま、依頼主の妻は大満足の笑みを浮かべた。

 ん?

 その髪が。

 出港前に見た時より、少し伸びている気がした。

 ベリベリベリショートだった髪が、普通のショートに見えるのだ。

 まあ、それは勘違いにしても、この二人が夫婦、という事実が解せない。

 男はどう見ても成人しているが、対する彼女は、多く見積もっても中等科が終わったかどうかくらいだ。

 こんな見た目で、年齢を止める人間などいない。

 ということは、彼女は今なお、成長中なのかもしれなかった。

 しかし、きっぱり夫婦と言われたしなあ。

 アルバの頭は単純で、複雑な話にはついていけない。

 危険な仕事をやり終え、G.B.で騒いで、酒を飲んで、チナを抱えて眠る──そのサイクルが、アルバの基本であり、脳の活動パターンでもあったのだ。

 考え込んでいる内に。

 お、おい。

 また、髪が伸びていた。

 今度ははっきりと分かった。

 完全に露出していた彼女の耳に、髪がかぶさっていたからだ。

 身体も、一回り大きくなった気がする。

「うふふ、いっぱい食べて大きくなってね」

 おおらかな妻が、また次の料理を持ってきた。

 おいおい…。

 冗談じゃなく、本当にその言葉通りになりそうだ。
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